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東京高等裁判所 昭和47年(行コ)89号 判決

控訴人

財団法人一樹工業技術奨励会

右代表者

石井光次郎

右訴訟代理人

茂手木隆

被控訴人

荻窪税務署長

瀧下昌久

右訴訟代理人

国吉良雄

外一名

右指定代理人

岩崎章次

外二名

主文

原判決を取消す。

被控訴人が控訴人に対し昭和四〇年六月三〇日付でした決定処分を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

被控訴人は、故音申吉がその死亡前の昭和三七年七月二日控訴人に対し金三、三五〇万円相当の財産を寄附したことをもつて、右は相続税法六六条四項の規定に該当するとして昭和四〇年六月三〇日付で控訴人に対し金一、四三七万五、〇二〇円の贈与税を課する旨の決定(本件決定処分)をしたことは当事者間に争いがない。

控訴人はこれに対し本件決定処分は右条項の適用を誤つた違法があると主張するので以下判断する。

一相続税法六六条四項の趣旨

個人がその財産を個人に無償で取得させた場合には相続税または贈与税(以下贈与税等という)を課しうるけれども、公益法人等に対しなされた場合には贈与税等を課しえないとされているところから、相続税法六六条四項(昭和二七年一月一日施行、以下本条項という)は、当該財産の使用収益から生ずる利益が、直接または間接に当該財産の提供者または贈与者(以下贈与者等という)、その相続人その他の同族関係者などがうけることができるような仕組―いわゆる私的支配―を有する公益法人等に財産を譲渡するときは、当該法人を通じて実質的には当該贈与者等又は同族関係者が当該財産を私的に支配し、その利益を享受するのと同様であつて、結局贈与税等の課税の回避にひとしいこととなるので、租税負担公平の原則の立場から、かような場合は、譲渡をうけた当該公益法人等を個人とみなしてこれに課税しようとするものである。

ところで本条項にいう「負担が不当に減少する結果となると認められるとき」というのは、認定の余地の多い極めて包括的な規定であり、かつ、特にその対象が公益法人等であるから右判断の前提となる事実の認定およびこれに対する判断は、当該立法の趣旨にのつとり、他方公益法人等存置の事由にかんがみ課税の結果についての影響を考慮したうえ、綿密な調査と慎重な配慮のもとになさるべきものである。

したがつて公益法人等を個人とみなして本条項を適用するためには、贈与等をうける公益法人等の人的構成、その組織上の機構、経営の実情等からみて贈与者またはその同族関係者らの手によつて私的支配の行なわれる虞れが客観的に明白であると認められる場合でなければならないと解するのが相当である。

この点につき成立に争いない乙第一号証の記載によれば昭和三九年六月九日付直審(資)二四、直資七七国税局長宛国税庁長官通達「贈与税の非課税財産(公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分)および公益法人に対して財産の贈与等があつた場合の取扱について」(以下三九年通達という)があること明らかで、被控訴人がその行政実務として右通達にのつとつて事務を処理し、本件についても一応これを基準としたものであることは弁論の全趣旨から明らかである。

二本件の場合被控訴人は

(ア)  控訴人の事業はその規模が小さく事業目的に具体性がない。

(イ)  助成金の分配が適正になされることの保障がない。

(ウ)  解散した場合の残余財産が国または地方公共団体に帰属する旨の明らかな規定がない。

(エ)  財産の提供者およびその特別関係者が理事その他役員数の三分の一以上を占める虞れがある(現に、控訴人の当初の理事の半数は故音申吉の二男桂二郎を代表者とする訴外日機装株式会社の役員で占められ、その他の者も故申吉または桂二郎の友人であつた)。

(オ)  控訴人は昭和三七、八年度各六〇万円、合計一二〇万円を故申吉の胸像建立資金として本来の公益目的外の支出をなし、しかもその額は各年度の支出総額の半分以上に及び、右支出は提供者ないし特別関係者に対し特別の利益を与えるものである。

(カ)  控訴人が取得した財産である訴外会社の株式五万株のうち三万株は、その基本財産としてそこから生ずる配当収入を経費等にあてるのみでそれ自体は公益目的に供される財産とは認められない。

などの事実をあげて、控訴人は故音申吉の相続人音桂二郎ほか二名その他特別関係者(以下音家のものという)らによる私的支配をうけるおそれがあるというのである。

これらの事項は一応三九年通達の規定のそれぞれに該当するものとして主張されていることはこれを了しうるが、右通達はもとより法律ではなく、法の委任に基づくものでもないので、形式的にはその一、二の項目に該当するとしても必らずしもそれによつて直ちに右相続法の条項に該当し、その立法目的に合致するものであるとはいえず、それに該当するかどうかは、事案の全体をみてさらに検討されなければならない。

三そこで以下右のごとき被控訴人主張の各事実によつて控訴人が音家のものによつて私的支配をうけるおそれがあると客観的に認めうるか否かについて判断する。

(1)  控訴人は、昭和三七年一一月故音申吉のかねてからの遺志とその寄附にかかる訴外日本機械計装株式会社(のち日機装株式会社と商号変更、以下訴外会社という)の株式五万株および現金一〇〇万円の財産とに基づき、工業技術に関する研究等の助成を図ることにより工業および工業技術の進歩発達に資することを目的として設立された財団法人であること、控訴人の役員構成は、寄附行為により理事三名ないし五名、監事一名ないし二名、評議員五名ないし一〇名とされているが、その制限としては役員および評議員の過半数が寄附行為者以外の学識経験者でなければならない旨の定めがおかれていること、その発足当時の役員は、理事長中川彦次(訴外会社の監査役)、理事花田雄治(訴外会社の顧問、公認会計士)、同乾崇夫(東大工学部教授)、同白倉昌明(同上)、監事酒井尚武(訴外会社の常務取締役)であつて、評議員の選任はなく、故申吉あるいはその相続人と親族関係にある者はないが、いずれも故申吉あるいはその二男桂二郎の友人もしくは知人の関係にある者であつたこと(右役員は昭和四〇年七月改選され、理事には前記中川のほかに、石井光次郎、日塔治郎、監事には前記花田、評議員には前記乾、酒井のほかに、永矢之政、黒瀬泰が就任)、控訴人の経常事務は訴外会社の秘書課長桑原茂雄が担当し、その書類等も同人が保管し、右事務のため訴外会社の人的物的施設を利用していたが、経費の分担はしなかつたこと、控訴人は前記の寄附財産のうち訴外会社の株式三万株を基本財産として保持し、株式二万株を運用財産として、主にその配当金により工業技術研究の助成事業を行なうこととし、年間合計七、八〇万円の助成金を、二、三人に分けて、かつ一人当り五〇万円以上にはならないように支給する旨の方針のもとに、一般的な広告等による公募はせずに、当初はもつぱら訴外会社の社員を通じて宣伝して助成金の申込みを募つたこと、助成金の申込については、まず前記桑原が窓口でそれが前記の規格に合うかどうかを審査した後、前記酒井が申込みにかかる当該研究が助成に価するかどうかを技術的見地から検討したうえで案を作り、理事会にかけて最終的に決定していたこと、理事会は理事が会合して行なわれるのではなく、書類の持ち廻りによる決議を例としていたこと、その結果、昭和三七年度(三七年七月一日から三八年六月三〇日まで、以下同じ)には助成金額七〇万円の中、四〇万円が東大工学部白倉研究室(前記白倉理事が主宰)に対し(「回転ポンプの基礎研究」について)、各一五万円が東京工大宮入研究室(「誘導電動機の広範囲速度防禦の研究」について)および中大教授野本明に対し、それぞれ支給され、昭和三八年度には、助成金四五万円の全額が前記白倉研究室に対し(「キヤンド・ブロアーの基礎計算」について)支給され、昭和三九年度には助成金総額九二万円の中、二四万円が前記白倉研究室に対し、二六万円(二回)が前記宮入研究室に対し、二〇万円が名古屋大学工学部武内次夫に対し、一〇万円が前記野本に対し、各五万円がI・F・A・Cおよび朝陽学園に対し、一万円が日本鉱物学会に対し、それぞれ支給され、さらに昭和四〇年度には助成金総額五〇万円の中、四〇万円が前記白倉研究室に対し、一〇万円が前記宮入研究室に対し、それぞれ支給されたが、翌年度からは訴外会社の株式が無配当になつたうえ、本件税金問題のため控訴人の財産がなくなつたので、助成を中止したこと、訴外会社は昭和三七年八月六日もと取締役会長であつた故申吉の偉勲をたたえるために同人の胸像を建立することを決定し、そのため同社で約三〇〇万円を負担することとしたほか、同社従業員等からも寄附金を募つたが、控訴人もその趣旨に賛同し、昭和三八年五月一日および一一月一日に各六〇万円(合計一二〇万円)を故申吉の胸像建立賛助資金として支出することをきめ、たまたまそのころ訴外東洋ポンプ株式会社から控訴人に対し寄附された同額の金員をもつてこれにあてることとしたこと、故申吉の胸像は、その後約四五〇万円を費して訴外会社の東村山工場敷地内に建立されたこと、以上の事実が認められることは、原判決理由(三三枚目裏四行目から三七枚目表八行目まで)と同一であるから、これを引用する。右事実によると、控訴人はその目的とする工業技術に関する研究等奨励のために支出しうる財源が少なく、事業の規模が小さいことから、その運営のための人的物的施設について自己固有のものを有せず、あげて訴外会社のそれに依存していること、訴外会社は申吉の二男桂二郎を代表取締役社長、申吉をはじめ監査役、のち取締役会長とする株式会社であること(この点は控訴人の明らかに争わないところである)、寄附財産はすべて故音申吉の拠出したものであること、などからみると、控訴人は訴外会社を通じて音家のものの私的支配をうけるおそれをもつごとき外観を呈するものといえないことはないし、そのうえ故音申吉の胸像建立賛助資金としてそのころ東洋ポンプ株式会社から寄附された同額の金員(合計一二〇万円)を支出していることは、控訴人の事業目的ならびに金額に照らし、私的支配の有無を判断する材料の有力な資料の一つとみられる余地もないではない。

(2)  しかし前記役員の構成について、三九年通達は「贈与等をした者およびその者と特別関係がある者が、理事、監事、評議員等または社員のそれぞれの数の三分の一以上を占めないこと。」が寄附行為等に定められていないことをもつて、本条項に該当する一場合としているところ、控訴人の寄附行為(甲第一〇号証)第一一条は前示のごとく役員および評議員の過半数は、寄附行為者以外の学識経験者中より選任されなければならない旨を規定したもので、寄附者音申吉は控訴人設立の当時すでに死亡しているから、自ら役員になることはありえず、この規定はむしろ音家のものが過半数を占めることを防止しているものと読み替えうるものであり、当初の役員構成については、理事四名のうち、中川、花田の両名は訴外会社に関係があるけれども、これらの者は法六六条四項、六四条一項にいう贈与者又はその親族と特別の関係にある者には直控該当するものでないことは自明であり、乾、白倉の両名はいずれも東大教授であつて、訴外会社の社長音桂二郎の友人というにすぎず、これも控訴人が設立された前記経緯に徴すれば、やむをえないことであり、あえて異を唱えるほどのことではない。しかのみならず、控訴人は昭和三七年一一月二四日の設立許可にかかる財団法人でその寄附行為はその当時のものであるところ、昭和二八年一二月二五日付直資一四一国税局長宛国税庁長官通達においては、医療法人については役員の構成につき財産提供者及びその同族関係者が全員の二分の一を超えないことをもつて本条項適否の基準としていたことは明らかであつて(成立に争いない甲第八八号証参照)、当時医療法人以外の公益法人については格別のものがなく、その後昭和三九年六月九日にいたつて三九年通達がなされるにいたつた経緯にかんがみると、控訴人としてはその設立の当初においてはその寄附行為の文言上、本条項に該当するものとは予期せず、直資一四一通達に依拠していたものと解するに十分であり、これをその後になされた三九年通達によつて問擬するのは酷であり、しかもその現実は右通達に直接該当するものでもない。これを要するに、本件において右役員の構成の点から音家のものがこれら理事を通じて控訴人の運営をほしいままに支配しうるとするには不十分である。

(3)  なお、寄附行為第二五条では「この法人の残余財産は破産の場合を除くほか、理事会の決議を経たのち主務大臣の認可をうけて、類以の目的を有する他の公益法人に寄附するものとす。」と規定し、残余財産が音家のものに帰属すべき機会を奪つているものであり、三九年通達によれば、解散した場合の残余財産が国、地方公共団体または公益を目的とする事業を行なう法人に帰属する旨を、定款または寄附行為に定められていないことをもつて本条項該当を認定する重要な要件事実として掲げていることが明らかであるところ、本件の場合は正に右通達の要求にそうものである。しかるに被控訴人は本件寄附行為第二五条の存在を看過して本件決定処分をなすにいたつたものであることは、その主張に徴し明らかであり、この点をもつて私的支配の証拠とすることのできないことはいうまでもない。

(4)  また、控訴人がその事業の運営のための事務的部面においては、訴外会社の人的物的施設に依存している点は、三九年通達のいずれの条項にも当るものではないのみならず、その設立の経緯や事業の規模からして、控訴人が独自の事務処理機関を設けることは至難のことであることからすればやむをえないところというべきであり、そのために事業の運営そのものが訴外会社にまかされたものということはできず、むしろ、このようにして事務費を節約することはそれだけ助成金の額をふやしうるものとして寄附者である故音申吉の遺志に沿うものともいえるであろう。

(5)  つぎに控訴人の事業が担当広汎な地域において社会的存在として認識される程度の規模を有していないということは、三九年通達にもうたわれている一項目であるが、右はそれが公益を目的とする事業を行なう法人というに該当するかどうかに疑問を投げかけるものとして理解すべきではなく、いやしくも公益を目的とする事業を行なう者として主務大臣の設立許可を受けている法人につき、その規模の大小によつて相続税法の本条項の適用の有無を決するのは、ひつきようそれがいわゆる私的支配を受け易いか否かの観点において問題にするものというべきであるところ、控訴人は当初から故音申吉個人の寄附財産のみに基づき発足したものである以上、ある程度他からの寄附財産の集積がなされるまでは、その規模も小さく、社会的存在としても重きをなすにいたらないとしても、もとよりやむをえないところであるし、その組織と機構のうえで、しかるべき配慮をしていること前示の如き本件において、控訴人の規模が小さいことの故に、特に音家のものによる私的支配が容易であるとすることはできず、事業の目的としては寄附行為第四条に明定され、これを控訴人は前示のとおり実行しつつあつたのであるから、事業目的に具体性を欠くというのはあたらない。

(6)  また、助成金の分配が適正に行なわれることの保障がないという非難も、少額な助成金を総花的に分配するよりは、重点的に配分先をしぼり、或る程度継続して行なうほうが、工業技術の育成には、むしろ効率的であると考えられるし、その配付先も前記のごとき人的構成のもとで決すべきものとされていることをもつて適正に分配されることの保障を欠くとはいえない。助成金の配付が工業技術のうちでも特殊ポンプに関するものになされているのが数例あり、訴外会社の事業と無縁でないことを思わせるものがないでもないが、その収穫が訴外会社に帰したことを認めるべきものはなく、いわんやその配分を通じて音家のものがその利益を享受しうるが如き仕組みも、また、その事実も、これを認めることはできない。

(7)  もつとも胸像建立賛助金の支出については控訴人の事業目的および運営資金の状況にかんがみると、控訴人が訴外会社を通じて音家のものの私的支配下にあることを示すもののごとく見えないでもない。ところで一般に、故人の人柄、事業の跡を偲び、これに対し敬愛の念を表することは自然人たると法人たるとを問わず、むしろ当然であつてこれを具象化するための金員の支出も、故人との関係、支出するものの経済的地位などからみて社会的に相当でないと認められない限りは、税務会計上においても経費の支出として是認せられるところである。本件についていえば、故音申吉はその人柄もよく、多くの友人知己に恵まれ、また、事業経営の能力手腕においてすぐれ、戦前戦後を通じて実業界に相当巾広く活躍し、特に同人は生前から工業技術奨励を目的とする助成金交付のための財団設立を念願していたものであることは、弁論の全趣旨により成立を認めうる甲第七三号証(音申吉追想録「残聲」)により認めうるところであり、同人一人の寄附財産をもとに設立された控訴人が訴外会社により、同人の胸像建立がなされるさい、その創立の恩人の徳を顕彰する意図をもつてこれに協力し、その資金の一部を拠出したのであつて、そのことは控訴人が公益法人だからといつて、あながち非難さるべき事柄ではない。本件の場合には控訴人の事業の性質、規模、経常費等にてらして、その金額がいささか過大である如くであるが、現実には訴外東洋ポンプ株式会社から控訴人に寄贈された金員をこれにあてているものであつて、その金額も、音申吉の醵出にかかる控訴人の全財産三、三五〇万円に比すれば、むしろ微々たるもので、これにより爾後の控訴人の事業の逐行に悪影響を及ぼす如きものとは解せられない。のみならず右胸像建立は故音申吉のいわば社会的に貢献した遺徳をたたえるもの、その出捐は訴外会社や控訴人のほか訴外会社の従業員らの零細な金員にも及んでいるのであつて、故人の子孫が本来当然なすべき墳墓の建設の如きものとは趣きを異にするものであるから、これをもつて控訴人らが音家のものに代つてこれが出捐をして、その事務を代行したものという関係に立つものではない。また、これにより、音家のものが間接的にもせよ利益をうけるとしても、それは故音申吉に対する社会的評価の遺族に及ぼす反映にすぎず、財産上の利益をうけるという性質のものではないから、この点をとらえて前記趣旨における私的支配の有無を論ずることは適切なものとはいい難い。

(8)  なお被控訴人は、控訴人が取得した株式五万株のうち三万株は公益目的に供されない財産であるというが、控訴人は財団法人であつて、その所期する事業活動の基礎を確立、安定せしめるためには、基本財産の設定は不可欠のものであるから、このために拠出された財産が公益目的に供されない財産であるといえないことは多言を要しないところである

(9)  本件の場合、控訴人は主務大臣から許可を与えられた公益法人であり、工業技術育成という、国の施策の多くを期待できない分野における事業に対し小規模なりといえども貢献することを目的とするものであるところ、本件課税処分によりその事業を中止するのやむなきに至つたというのであるから、かくては右手で与えながら左手で奪うということにもなりかねないであろうし、被控訴人としてもこのような結果はおそらくその本意とするところではないであろう。

四これを要するに、被控訴人が主張するごとき各事実(その評価、判断については既述のとおりである)のほか、他に特段の事情―例えば音家のものが、助成した結果完成した工業的権利を独占的に取得しているとか、事業費以外の支出経費をその利益において計上しているとかの事実―の認められない本件にあつては、控訴人は音家のものの私的支配をうけているとは客観的に認められないから、これに対する故音申吉の寄附行為を目して相続税の負担が不当に減少する結果となる場合にあたるとして、被控訴人がした本件決定処分は違法であり、取消しを免れないものというべきである。

したがつて、これと異なり控訴人の本訴請求を棄却した原判決はこれを取消すこととし、民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(浅沼武 加藤宏 園部逸夫)

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